製造業や物流業界では、設備の長寿命化と運用コストの削減が継続的な課題となっています。
これらの業界で広く使用されているステンレス鋼設備についても、より高い性能とコスト効率が求められています。
従来のステンレス鋼は優れた材料である一方で、特定の環境下では腐食による劣化、重量による作業負担、原材料費の変動リスクなどの課題も存在します。
そこで今回は、既存の課題を包括的に解決し、設備の性能と経済性を向上させる「二相ステンレス鋼」をご紹介します。
二相ステンレス鋼は、従来の一般ステンレス鋼が抱える弱点を克服し、高強度と優れた耐食性を両立した新世代の素材として注目されています。
特に、一般的に使われるステンレス鋼(SUS304やSUS316L)の代替として開発されたグレードは、既存設備の課題解決に向けた有力な選択肢となります。
二相ステンレス鋼とは
二相ステンレス鋼は、「フェライト相」と「オーステナイト相」という二つの異なる金属組織を併せ持つ二相混合ステンレスです。二層鋼(クラッド材)ではありません。
一般的なステンレス鋼には、磁石に付かないオーステナイト相(SUS304など)と、磁石に付くフェライト相(SUS430など)がありますが、二相ステンレスはこれら両方の組織を一つの材料内に併せ持つことで、独自の優れた特性を発揮します。
従来の二相ステンレス鋼は高価である、溶接性が悪いといったデメリットがありましたが、今回ご紹介するSUS821L1とSUS329J1は、これらの課題を克服した新しい二相ステンレス鋼です。
主な特長とメリット
高強度と軽量化
二相ステンレス鋼SUS821L1は、SUS304と比較して約2倍の強度を誇り、硬さも約1.7~1.8倍に向上しています。これにより、同じ強度を保ちながらも、より薄い板厚で製品を製造することが可能となります。
実績例:
・タンク:SUS304(2mm厚)→二相ステンレス鋼(SUS821L1、1.5mm厚):25%の板厚削減、26%の重量・材料コスト削減
・床材:SUS304(6mm厚)→二相ステンレス鋼(SUS821L1、3mm厚):52%の重量削減
優れた耐食性と長寿命化
SUS821L1はSUS304と同等かそれ以上の耐食性、SUS329J1はSUS316Lと同等かそれ以上の耐食性を有しています。
特に、SUS304の弱点とされる孔食や応力腐食割れが起こりにくく、設備の長寿命化に貢献します。
南アジアでの屋外暴露試験においては、SUS304で錆の発生が確認された一方、SUS821L1では軽微な錆にとどまりました。
低熱膨張性による安定性
熱による膨張・収縮がSUS304に比べて小さいため、使用過程で発生しがちな歪みの発生を抑制できます。
これは、レトルト殺菌トレーのように高温環境下で繰り返し使用される製品において、変形による破損リスクを軽減し、製品寿命を延ばす上で非常に有利な特性です。
価格安定性と省資源
二相ステンレス鋼は、レアメタルであるニッケルの含有量をSUS304よりも大幅に削減して製造されています(SUS304のニッケル含有量約8%に対し、SUS821L1は約2%)。
これにより、ニッケル相場の高騰リスクを抑制し、価格の安定性が期待できます。
衛生管理機能の向上
SUS821L1は磁石に付着するため、食品工場など異物混入を避けたい場所で、マグネットによる異物除去に利用できます。
また、研磨性に優れるため、クリーンルーム用途にも適しています。
メーカーによる導入実績とコスト削減効果
グレーチング
・SUS304製やメッキグレーチングからの置き換えで30%~50%の重量削減
・工場での毎日の清掃作業が向上
・軽量で扱いやすく、工場設備の補修予算で手軽に試せるとして好評
・標準品として、人の荷重に耐える5kNタイプ(約500kg)と、2トン荷重に耐える高強度タイプを用意
・約2~3週間で納品可能
その他の実績
・角タンク:25%の軽量化達成、作業性・搬送性向上
・設備架台:角パイプで33%、アングルで33%、設備全体で20%の重量と価格削減
・殺菌トレー:熱による歪みを軽減し、補強材の削減も可能
・床材:クリーンルームでの清掃性向上、電解研磨不要でコストダウン
総合的なコスト削減実績:10%~30%程度
加工時の注意点
制約事項
・切断加工:高強度のため、同じ厚さのSUS304をシャーリングできる機械でも、SUS821L1は60%~80%程度の厚みに制限される場合があります
・絞り加工・曲げ加工:高強度のため加工が難しい場合があり、特に曲げ加工ではスプリングバックが発生するため曲げ条件の調整が必要
・使用推奨温度:SUS821L1は-50℃~300℃まで(SUS304は-196℃~+850℃まで)
対応可能な加工
・溶接:SUS304と同等条件での溶接が可能(推奨溶接棒使用、入熱管理重要)
・切削性:ほぼ同等、ドリルでの穴あけは容易
・異種材溶接:SUS304とSUS821L1の溶接も推奨溶接棒で対応可能
二相ステンレス鋼(SUS821L1、SUS329J1)は、高強度、高耐食性、価格安定性といった多角的なメリットがあります。
特にグレーチングは、軽量化による作業性向上と清掃性改善により、工場設備の補修予算で手軽に試せる商品として最適です。
従来のSUS304やSUS316L、アルミニウムやFRPといった素材からの置き換えにより、軽量化、長寿命化、コスト削減といった多岐にわたるメリットをもたらす材料として、設備更新の際にぜひご検討ください。
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